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丸谷 嘉長は切ないのか?  インタビュー&文  --  唐澤和也

では、丸谷さんのホームページに掲載されている『connect』について。
写真を観た人が、どんな感想を口にしたら嬉しいですか?

いやだなぁと思うのは「丸谷さんらしいね」ですね。だったら、「こんなのも撮ってたんだ!」とか言われるほうが嬉しいかもしれない。『connect』では、ふだんの自分が好んで観ている風景を確認してみたかったんです。これは、広告写真、雑誌の写真、作品を問わず共通しているんですけど、「その時、その場所に自分がいた証」みたいなものが欲しくて、僕は写真を撮っているようなところがある。って言っちゃうとカッコよく聞こえるかもしれないですけど、要は自己主張が強いというか、わがままだってことなんだけど(笑)。

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個人的には、『connect』の「エアプレーン&エアー」の水たまりに飛行機が映り込んだ写真を見て、時間が飛びました。子どもの頃に初めて飛行機を見た興奮を思い出したというか。

あ、それは嬉しい感想ですね。実は、時間に対するメッセージって、写真を撮る時に抱いていたりはするんです。こうやって話ながらも、ゆっくりと死には向かっているわけじゃないですか。しかも、カメラマンは「1時間以内で撮ってくれ」だとか、125分の1でシャッタャーを切るだとか、常に時間と共にある。時間は無限じゃない。もうちょっと大切にしたほうがいいんじゃないかというメッセージ。そういう意味で、30歳の時に「死の匂いがする」と言われたのも完全に否定することはできないんだけど、でも、僕としては逆じゃないかと思っていて。たとえば、現代のトップアイドルを撮影したとする。彼女たちはキラキラと輝いている。いわば、「生」ですよね? そういう時、僕はキラキラと輝いている彼女の「生」の裏側をこそ感じてしまうんです。プライベートな時間もなくて大変だろうなぁと同情しつつ、「このまま時間に刻まれて刻まれて、彼女たちの肉体はなくなっちまうんじゃねぇか」みたいな哀しさを感じてしまう。写真に残せるかはともかく、だからこそ、その感触を僕は撮りたい。それって、世間的にはネガティブな感覚なのかもしれないけど、僕は、ものすごくポジティブだと思うんですけどね。だって、めちゃくちゃ嬉しかったことって、やがて忘れるじゃないですか。でも、めちゃくちゃ悲しかったことや痛かったことは、いつまでも覚えているもの。そして、悲しみや痛みを乗り越えるからこそ、人って少しは前を向けるようになる生き物だと思うから。

では、もし、死ぬ前に撮れる写真があと一枚だと誰かが教えてくれたとします。その時、丸谷さんはどんな写真を撮りますか?

難しい質問だなぁ。……これもネガティブな印象を持つ人がいるかもしれないけど、僕はポジティブだと思って口にするんだけど……自分が死にゆく瞬間を撮りたいと思いました。映っているのは俺の手だけでもいい。最後の瞬間の自分が撮りたい。つまり、もうこのインタビューでバレちゃってると思うんだけど、僕の写真は決してポップではないんです。だから、「ある種のポップさが必要とされる広告写真を、俺は撮っちゃいけないんじゃないか?」と本気で思う瞬間があるぐらいで。一方で救われてるなぁとも思う。たとえば、さっきのトップアイドルの例で言えば、彼女たちが持つポップさのおかげで、世間的にはネガティブかもしれない僕のなにかが相殺されて、それこそ「死の匂いがする写真」とは言われずに済んでいるから。

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ユーモアについてはどうでしょう。たとえば、ホームページに掲載されている土屋アンナさんがサンドバックをぶん殴っている写真。あの一枚には、彼女のカッコ良さだけでなく、そこはかとないユーモアも漂っているように感じます。

ユーモアに関しては、全然嫌いじゃないですね。究極の悲劇って喜劇になりうるし、その逆もまた然りで。白い液体に赤い雫を一滴たらしただけで、一瞬にしてピンクになるような混ざり方をしているというか。僕はジム・ジャームッシュの映画が好きなんですけど、なにが好きって悲劇と喜劇が混在しているところだから。もっと身近な例で言えば、お葬式って、誰かがくだらない冗談を言っただけで、不謹慎とは知りつつも笑いが止まらなくなる時があるじゃないですか。あれって、僕は人間の持つ、抗えない性(さが)だと思う。しかも、この種の感覚って、実は日本人が昔から持っている優れた部分だとも思うんです。たとえば、鵜飼。俳句でも「おもしろうてやがて悲しき鵜飼かな」と詠まれていて核心をついてるなぁと思うんだけど、鵜に魚を飲ませておいて吐かせるって、もし人間がやらされたらどれだけツラいんだろって(笑)。鵜飼は、意味がわからないけど、可笑しくもあり、哀しい。そこは僕、わかっているつもりだし、そういう感覚が合う人とは、広告とか雑誌とか関係なく、一緒に仕事がしたいなぁと思いますね。


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